『逃げること』と聞いて、どんなイメージを持っていますか?
あまりポジティブなイメージではなく、卑怯者だとか、負け犬だとかネガティブなイメージのほうが強いのではないでしょうか。日本では、『逃げる=負ける』という感覚があり、逃げてはならないという精神論が根強くありますね 。
確かになんでもかんでも逃げればいいわけではなく、人を見捨てて逃げたり、お金を持ち逃げしたりすることは、かなり問題です。そういう逃げ方は、確かに非難されるべき逃げかたでしょう。
ただ、責任の名のもとにがんばりすぎて、自分を追い込んでしまい、自滅したり、病気になったりしてしまうまで、逃げないというのは、あまりにも危険すぎます。
確かに責任を放棄して、逃げることは無責任な行動と非難されるかもしれません。しかし、そもそも責任って1人で背負うものなんでしょうか?責任感の強い人間ほど、1人で責任を背負いこんでしまいがちですが、本来、複数人で共有するものです。
私は、今までに責任を他人になすりつける行為をたくさん見てきました。特に自分より立場が下の人間に押しつける例は、日常茶飯事のように行われています。ひどいときには、うそをついてまで行われることもありました。
世の中には、そんな無責任な人間が無数にいますので、本来、褒められるべきであるはずの責任感のある正直でまじめな人間だけが、責任を馬鹿正直にかぶって、がんばりすぎて自滅すべきではありません。
逃げなかったために5年を棒にふる(´Д`)
私は、以前勤めていた会社で、精神的にダウンした経験を持っていて、今、振り返れば、あのときすぐに会社を辞めて、逃げておけばよかったと後悔しています。なんとかよりよい方向に現状を変えようと、がんばっていましたが、最後には精神的な病気になってしまいました。
当時、ある会社の人物と話しをするだけで、吐き気がひどい状態が続き、下痢続きだったことを覚えています。このときは、これが、体の危険信号だとは思わず、がんばっていたのですが、体が拒否反応を起こしていたのだと感じています。
そういうときは、無理をせずに、会社を辞めて、逃げるべきだったと、後悔と反省をしています。会社を辞めることで、収入がなくなって、生活が苦しくなるので、辞められない事情がありましたが、精神病になって長期療養を余儀なくされるくらいなら、会社を辞めたほうが100倍マシでした。
私は、どんな困難でもそれを乗り越えることで、人間的成長があると思って、がんばってきました。でも、病気になってみて初めてわかったんです。人生には、どうしても乗り越えられない壁もあるということが・・・そんなときは、躊躇せず一目散に逃げなければならないということを!
世の中には、自分とは全く合わない、思考や行動を理解できない人間が必ずいます。そんな人に出会ったら、なるべく関わらないようにして、逃げなければなりません。
兵法書にもある逃げるという戦術
戦略や戦術について書かれている兵法書にも、逃げることについて書かれています。兵法書は、もともとは戦争に勝つための指南書ではありますが、現代では、ビジネスシーンにおいての戦い方としても、解釈し直され、活用されています。
兵法書の中でも、孫子の兵法書は、もっとも有名な中国の兵法書なので、知っている人も多いのではないでしょうか?孫子の兵法書の中には、逃げることについてこう書かれています。
十なれば、則ちこれを囲み、
五なれば、則ちこれを攻め、
倍すれば、則ちこれを分かち、
敵すれば、則ちよくこれと戦い、
少なければ、則ちこれを逃れ
若(し)からざれば、則ちこれを避く
これを訳すと、
(自分の兵力が相手の兵力の)
10倍あれば敵を包囲し
5倍なら敵を攻撃をし、
2倍なら敵を分断して、
互角ならがんばって戦い、
少なければ退却し、
勝ち目がないほど差があれば戦わない
となります。
最後の2行からもわかるように、勝ち目がないときは、退却する(逃げる)か、そもそも戦い自体を避けるべきと言っているのです。
三十六計逃げるに如かず
ということわざがあります。三十六計とは、中国の兵法書で兵法における戦術を六段階、三十六通りに分けてまとめたものです。
語源は『南斉書・王敬則伝』の
壇公の三十六策、走ぐるは是れ上計なり
からきています。
三十六の策(作戦)があるが、逃げるべきときは逃げて、自分の身の安全を保った後に、再起を図ることが、最上の策であると言っています。
兵法三十六計の中にも、最後の第三十六計には、
走為上(走るを上と為す)
とあり、これを訳すと
以上の(これまでの三十五の)計略でも勝算が立たないときは、逃げるのが上策。
となり、勝ち目がなくて、どうにもならないときは、逃げなさいと言っているのです。
『逃げる ≠ 悪いこと』 逃げることは決して悪ではない
逃げること、つまり、一旦身を引くことは、決して悪いことではなく、戦術的にも理にかなった立派な方法なのです。本当に精神的にやばいときは、一度、引いて、しっかり自分を立て直すことは、長い人生において、とても大切な処世術なのです。
自分の限界を知る
逃げるタイミングを知る意味でも、自分の限界はどのくらいなのか?を把握しておくことは、とても大切なことです。実際にどのくらいが限界かというのは、そうなってみないとわからないですが、ここまできたら逃げるという、線引きを自分の中に作っておくとよいでしょう。
ただ、逃げるだけでは確かに罪悪感を感じるかもしれませんが、一旦、身を引いて、自分を立て直して、再び万全の態勢で新たな人生を切り開いていくと考えれば、とても建設的で未来志向のすばらしい行動であると感じてもらえるはずです。
逃げることのメリットには、自分の身を守るということ以外にも、一旦、その世界から身を引くことによって、また違う世界を見たり、体験できたりするという利点があると思います。逃げ方によっては、自分を成長させることもできるのです。
ゲームにだって『逃げる』という選択肢がある
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどのロールプレイングゲームには、必ず戦闘コマンドの中に「逃げる」というコマンドが用意されています。主人公よりも強い敵に遭遇してしまったら、『逃げる』コマンドで、逃げて生き延びなければ、ゲームオーバーになってしまいます。再び、ゲームを再開するには、お金が半分になっていたり、セーブ(保存)しておいた時点からやり直したりしなければなりません。
逃げないことで、人生がゲームオーバーになってしまい、ゲームと同じように、再び復活するまでに時間を要してしまわないように、『逃げる』ことで危険を回避していかなければならないのです。
最後に
会社や組織は、あなた1人で成り立っているわけではありません。自分にしかできない仕事だと思っていても、一時的には穴が開くかもしれませんが、あなたが抜けたら誰かがその代わりをして、最終的にはほとんど影響がなかったりするものです。組織なんてそんなものです。
もちろん逃げると言っても、会社や組織を辞めるときは、最低限のマナーは守る必要はありますし、なるべく迷惑のかからないように配慮する心構えは大切です。ただし、緊急を要する場合は、そんなことを言ってられない場合もあり、そのときは直ちに待避しなければなりません。
本来、責任感の強い人間は、社会的に見ても優秀で、有望な人材であるはずです。そんな優秀な人材がつぶれて、社会から退場してしまうのは、本当にもったいなく社会的損失です。優秀で責任感の強い人間こそ、逃げるという戦法をぜひ覚えてほしいのです。
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